第21回日本認知療法・認知行動療法研修会

第20回日本認知療法・認知行動療法学会では、様々なカテゴリーにおいて、必要基礎知識の普及と情報の共有を目的とした「第21回日本認知療法・認知行動療法研修会(ワークショップ)」を開催いたします。
このプログラムには分野を問わず多くの方々にお集まりいただきたく、ご案内をいたします。
日本認知療法・認知行動療法学会の会員でない方、またワークショップ単独での受講者も歓迎しております。
こちらのワークショップへの受講申込はオンラインによる事前登録制です。開催区分によって、費用が異なりますので、ご確認の上、お申し込み下さい。ワークショップは、会期中(11月21日~23日)にライブで行うもの13演題とオンデマンド配信2演題(11月21日~12月23日)の2種類です。みなさまのご参加を心よりお待ちしております。

ワークショップの料金形態 ※学会参加は必須ではありません

  会期中:11月21日~23日 会期後:11月30日~12月23日
ライブ配信 12演題 6,000円 8,000円
オンデマンド配信 2演題 6,000円 8,000円
  • ※公開終了後は、2021年以降に、日本認知療法・認知行動療法学会ホームページにて再度公開することも 学会事務局で検討中でございます。
  • ※ワークショップのオンデマンド配信につきましては、上記のページ上にて、都度課金にて期間中は何度もご覧いただける形となります。
  • ※完全オンデマンド配信のワークショップについては、6,000円でご覧いただける期間は11月21日(土)~23日(月・祝)となります。11月23日以降は、8,000円を再度お支払いいただくことで、12月23日ごろまで何度も閲覧いただけます。
  • ※ワークショップ 7「面接動画を用いた認知療法・認知行動療法ワークショップ:臨床実践においてつまずきやすい4つのポイント」につきましては、後日オンデマンド配信がございませんので、あらかじめご了承いただけますと幸いです。

WS01 ワークショップ1

2020年11月21日(土)9:00-12:00

メタ認知トレーニング(MCT)の実践

オーガナイザー
松井 孝至 先生 (第二北山病院)

突然ですが、みなさんの認知は正しいと言い切れますか?統合失調症やうつ病などの精神疾患において、認知機能の低下・異常が生活に大きく影響を与えています。特に統合失調症では、脳の一部が一時的に機能異常を起こしている状態で、幻覚、妄想、自我障害、感情の平板化、意欲の障害などの精神症状の他に、約8割の方に認知機能の障害が出てきます。統合失調症の方の多くは、集中力が続かない、忘れっぽい、人より作業に時間がかかる、段取りよく作業ができない…などといったことが起きやすいのです。その背景には、「記憶力」「集中力」「段取りを考える力」といった認知機能が低下していることが考えられます。では、その認知機能とは一体どういうものなのか説明できるでしょうか?スマートに説明することはとても難しいです。認知機能は神経認知と社会認知という2種類に大別されます。神経認知とは、注意、記憶、実行機能など課題処理を主な機能としています。一方で社会認知とは、表情・情動認知、心の理論(例:悪気なく嫌がることをする)、結論への飛躍、原因帰属バイアス(例:人のせいにばかりする)を主な機能としています。今回、前半はこれらの認知機能の『概要』、『捉え方・評価の仕方』といったポイントに絞り、講義を行いたいと思います。ただただ落ち着かずうろうろしている人、同じ確認を何度もしてきて面倒な人、何度言ってもルールが守れず和を乱す人など、病棟でよく見かけませんか?そうした患者さんの多くは性格の問題で片付けられたりしています。でもこの現象をどう捉えるかによって、その人とのかかわり方やアプローチの仕方が変わり、患者さんの行動にも改善が見られてきます。後半には認知機能にターゲットを当てた『アプローチ方法』をいくつか紹介し、その中から当院で行っている『メタ認知トレーニング(MCT)』について詳しく説明させていただき、体験もしていただこうかと思います。このメタ認知トレーニングは、主に統合失調症を対象としてはいますが、目的としているものは、自身の認知(考え)の偏りや歪み・ズレに気付き、修正方法を身につけるところにあります。つまり、統合失調症だけではなく、あらゆる人(健常者を含む)を対象とすることができ、医療の分野だけではなく、就労支援や地域、教育、家族などの分野で応用が可能です。当院ではOTプログラムとしてだけではなく、院内研修としてスタッフ向けにも実施しています(現在は新型コロナウィルスの感染予防のためリモートで実施)。他にも所属している京都府作業療法士会のひきこもり支援OTチームでは支援団体や親の会の中で活用したりもしています。多かれ少なかれ、人は認知に偏りがあります。自分自身の認知の偏りを知る機会にもなりますし、患者さんの認知の偏りを知り行動の理解を深める機会にもなります。精神科分野以外の方も、ご参加お待ちしております。

WS02 ワークショップ2

2020年11月21日(土)9:00-12:00

ソクラテスの質問法

オーガナイザー
若井 貴史 先生 (長岡病院/哲学心理研究所)

認知療法・認知行動療法において、患者の認知を変えるためには、特有の質問をすることが大切であるとされている。この質問は、古代ギリシャの哲学者に因んで、ソクラテスの質問法と呼ばれている。ソクラテスの質問法の利点について、ベックらは、治療者がいない時でも患者がこの種の質問を自分自身で行うことができること、つまり、患者が自問自答できるようになることにあると指摘している(Beck et al.,1979)。これは、治療者がくり返し質問することにで患者の中に問いが内在化するため、その後は自問自答することによって、自分で自分に認知療法・認知行動療法を実施できるようになるということを意味する。

ところが、このソクラテスの質問法について、臨床的・実践的な観点から詳細に論じられている論文や著書は極めて少ないのが現状である。そこで本ワークショップでは、若井(2014)で類型化した以下の6つの質問を中心に取り上げる。

  1. 捨象情報を問う
  2. 根拠を問う
  3. 例外を問う
  4. 程度を問う
  5. 差を問う
  6. 別の立場を問う

これは問う対象に応じて整理した私案であり、ソクラテスの質問法の基本技にあたると考えているものである。これらがそれぞれどのようなものであるのか、どのような目的・機能を有しているのか、したがってどのような場面で使うと効果的なのかを紹介する。

そのうえで、具体的なモデルケースやロールプレイをとおして、これらの基本技の形をしっかり習得していただくことを目指したい。

本ワークショップの対象者としては、認知再構成法の大枠は理解している初学者から、臨床上認知再構成法を使ってはいるが、なかなかうまく使いこなせていないと感じている中級者レベルまでを想定している。

WS03 ワークショップ3

2020年11月21日(土)13:50-16:50

家族と協働して実施する認知症のBPSDに対するポジティブ心理学的な認知療法・認知行動療法

オーガナイザー
武藤 崇 先生 (同志社大学心理学部・心理学研究科)

各種の認知症ガイドラインで推奨されているところ(たとえば,厚生労働省(2015)など)によれば,現在,認知症の行動・心理症状(以下,BPSDとする)への対応は,非薬物療法である。そして,Abraha et al. (2017) による非薬物療法の効果についてのメタ分析によれば,BPSDの低減に効果的であるとされたものは,音楽療法と行動的マネジメントであった。また,改善がみられたBPSDは,焦燥・不穏状態,攻撃性,不安,抑うつであった。また,ここでの行動的マネジメントとは,応用行動分析学に基づく介入(機能アセスメントに基づいた介入やトークン・エコノミー),認知行動療法,コミュニケーション訓練,筋弛緩法などを含む介入であった。ただし,BPSDに対する認知療法・認知行動療法は,初期の認知症あるいは軽度認知障害(MCI)の患者にみられる「不安や抑うつ」を対象としている。

そこで,本ワークショップでは,今後のさらなるBPSDに対する認知療法・認知行動療法の適用範囲の拡大を目指して,3つのトピックを取り上げることとする。それらは,

  • 1)英国で実施されている「ステップド・ケア」システム(低強度から高強度の段階的なケアシステム)
  • 2)ポジティブ心理学的なパラダイムシフト(生活の質やウェルビーイングの向上を第一義とする方向性への転換)
  • 3)家族介護者が持っている認知症に対するスティグマ(ネガティブなステレオタイプを含む)に対する認知療法・認知行動療法的な支援
の3つである。

WS04 ワークショップ4

2020年11月22日(日)9:00-12:00

マインドフルネス認知療法~概念、実践、そしてEnquiry~

オーガナイザー
佐渡 充洋 先生 (慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
二宮 朗 先生 (慶應義塾大学 医学部 精神神経科学教室/慶應義塾大学ストレス研究センター)
永岡 麻貴 先生(慶應義塾大学 医学部 精神神経科学教室)
小杉 哲平 先生(慶應義塾大学 医学部 精神神経科学教室/特定医療法人群馬会 群馬病院)

マインドフルネスの概念を取り入れた介入には様々なものがあるが、精神医学や臨床心理学の領域では、マインドフルネスと認知行動療法の手法が統合された「マインドフルネス認知療法」が最も馴染みのある介入技法かもしれない。マインドフルネス認知療法とは、「意図的に、今この瞬間に、価値判断をすることなく注意を向けること」と定義されるマインドフルネスの技法を用いることで、不安や抑うつの原因となる思考の反芻を抑制し、気分の改善をはかる精神療法のひとつである。 マインドフルネス認知療法のセッションでは、瞑想やヨガといったマインドフルネスの技法を中心に練習していく。通常10-20人程度の集団で、1回2時間のセッションを合計8回実施する。この集団精神療法の前半では、呼吸や体の感覚に注意を向け、そのままそこに注意をとどめることから訓練を開始し、後半では、思考や気分をそのままとらえる「脱中心化」の技法を身に付けていく。従来の認知行動療法が認知の変容を積極的に扱うのに対して、マインドフルネス認知療法では、思考をそのままとらえるだけで、認知の修正を積極的に扱うわけではない。しかし、どちらの精神療法でも「脱中心化」が治療上重要な役割を果たしている点が、共通点としてあげられる。マインドフルネス認知療法において中核的な役割を担うマインドフルネスについては、近年、その認知度の向上に伴い、関連書籍も数多く出版されてきている。よって、それらを通じて、マインドフルネスに対する理解を深めることが可能となってきている。しかし、その本質が「実践を通じた気づき」にある以上、体験の伴わない理解だけでは不十分なのもまた事実である。 そこで、このワークショップでは、参加者に様々な瞑想のエクササイズを実際に体験してもらい、その体験を参加者や講師との間で共有していく。こうした「実践を通した気づき」のプロセスから、マインドフルネスそのものへの理解を深めていく。また、こうした体験と講義などから、マインドフルネスのどのような点がうつや不安といった精神症状の改善に効果を発揮するのかといった、精神療法における効果発現の機序についても理解を深めていく。さらには、セッションの中で鍵となるEnquiry(参加者とのやりとり)についても解説を加えていく予定である。

WS05 ワークショップ5

2020年11月22日(日)9:00-12:00

産業領域で活かす簡易型CBT ストレスチェック・一次予防に役立つウェルビーイング手法のスキル実践

オーガナイザー
須賀 英道 先生 (龍谷大学短期大学部)

ストレスチェックが産業界に導入されてから高ストレス者をフィルタリングする視点が強調されています。ここでは労働者のメンタル不調という概念によって医学的に病的な状態という問題性が重視され、本来労働者に求められるべき健康志向性、すなわち一次予防の視点が軽視されている傾向にあります。各個人の訴える、あるいは生じた具体的問題に対して原因究明し解決するという方向性(パソジェネシス手法)は医学の基本ですが、最近のように個人要因以上に環境要因が大きくなってくると、各個人の抱える問題の解決を最善とする方向性から、環境適応への柔軟性と主観的幸福感の向上へも価値観を求める流れ(サリュートジェネシス手法)も必要とされるでしょう。ウェルビーイング手法はその1つであり、各個人が自らの特性を理解し、自己の強みを早期につかみ、自己肯定によってウェルビーイングに至るといったポジティブ思考が求められます。これによってレジリアンス強化につながることが実証されており、これこそがメンタル不調の1次予防に直結する手法といえます。そして、この方向性は個人に限られるものでなく、relationship(絆)の強化によって、家族・社会での受容性の向上や連帯感による行動変容を生み出し、ウェルビーイングを拡大させ、産業界での働き方改革へも応用されるのです。 2019年度から働き方改革法案が施行され、就労環境や働き方への関心が高まり、一般をターゲットにしたストレスコーピングや気分・モチベーション向上を求めた簡易実践書(トレーニングブック)の必要性が求められるようになりました。就労者や企業経営者の双方に日常生活の中でいつでも使えるトレーニング手法が必要とされています。このワークショップではウェルビーイングのトレーニング手法を具体的に実践します。日常生活での実践にも役に立ちますので気軽にご参加下さい。

WS06 ワークショップ6

2020年11月23日(月・祝)9:00-12:00

CBTスキルアップ:認知療法・認知行動療法の基礎固め

オーガナイザー
大野 裕 先生 (大野研究所)
菊地 俊暁 先生 (慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
中川 敦夫 先生 (慶應義塾大学病院臨床研究センター)

認知療法・認知行動療法に対する関心は高いが、それだけに誤解されることも少なくない。認知行動療法は問題解決的アプローチであり、考えを修正するのは目的ではなく、問題に対処するための手段である。また、認知ばかりに目を向けて相談者の人となりを理解することを怠ったり、人間的で支持的な関係性に目が向かなくなったりすることもある。本ワークショップでは、こうしたことを含めて、認知行動療法で誤解されやすい点に触れつつ、認知行動療法のエッセンスについて動画とロールプレイを交えながら紹介することにしたい。本ワークショップは、認知行動療法の初心者が認知行動療法の第一歩を学ぶ機会となるだけでなく、経験者がもう一度基本に立ち返りさらなるスキルアップを目指すきっかけを提供できるものにしたい。

ワークショップの進め方であるが、まず認知行動療法の基本的な考え方やよくある誤解について解説し、認知行動療法で重視されるソクラテス的問答や協働的経験主義について研修する。続いて、認知行動療法の基本的な面接構造である導入パート、相談・対処パート、終結パートについて動画やロールプレイを織り込みながら研修する。

導入パートでは、気分をチェックして前回のセッションのポイントと前回のセッション以降の生活のなかで起きた重要な出来事、そしてホームワークを振り返り、アジェンダを設定する。ちなみに、アジェンダはスキルではなく、患者が解決しなくてはならない心理的課題に関連した具体的な出来事である。相談・対処パートでは、患者の心理的課題に関連した認知または行動に焦点を当てながら、アジェンダ(現実の問題)に対処するのに適したスキルを柔軟に選択し、患者が問題に取り組むのを手助けして、そこで使ったスキルについて簡単に説明(心理教育)を行う。

最後に終結パートに5分から10分を使って、セッション全体を振り返り、話し合った内容に関連したホームワークを決め、セッション全体に対して患者からフィードバックを得る。最後に、インターネットを活用した認知行動療法の学習のポイントについて解説する。

ワークショップ概要
  1. 認知行動療法の基本概念
  2. コミュニケーションスキル
  3. 概念化
  4. 面接の基本型(導入・話し合い・まとめ)
  5. 行動活性化
  6. 認知再構成法
  7. まとめ
参考図書
大野裕、田中克俊:保健、医療、福祉、教育に生かす 簡易型CBT実践マニュアル、ストレスマネジメントネットワーク、2017

WS07 ワークショップ7※後日オンデマンドはございません

2020年11月23日(月・祝)13:00-16:00

面接動画を用いた認知療法・認知行動療法ワークショップ:臨床実践においてつまずきやすい4つのポイント

オーガナイザー
大野 裕 先生 (大野研究所)
菊地 俊暁 先生 (慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
中川 敦夫 先生 (慶應義塾大学病院臨床研究センター)

認知行動療法を含む精神療法の勉強に不可欠と考えられる実際の面接場面への陪席やスーパービジョンの機会は、わが国ではごく限られている。そのために、精神療法を勉強しようとする多くの臨床家はテキストを読んで勉強をしてきた経緯がある。しかし、テキストをいくら読んでも文字から得られる情報だけでは、その内容の理解の仕方によっては思いがけない誤解が生じたり、いざ面接場面で実践しようとする際に不十分であったりすることも多い。特に、面接スキルの習得はテキストのみからでは難しい。このため、映像を通して面接を見ることは、実際に認知行動療法の面接に同席する機会のない臨床家にとってはスキルアップのための大きな力となるであろう。

本ワークショップは、認知行動療法の面接動画を教材として、臨床家がつまずきやすいポイントを参加者とのディスカッションを通して理解を深め、認知行動療法のスキルアップを図っていくことを目指す。本ワークショップの動画教材としては、アメリカ精神医学会が精神科レジデント(専攻医/後期研修医)の教科書として作成した『認知行動療法トレーニングブック[第2版]』(医学書院, 2018)に収載されている動画を使用する。

ワークショップ概要
  1. 認知行動療法面接の勘所:Cognitive Therapy Rating Scale (CTRS)概説
  2. 認知行動療法の実践において臨床家がつまずきやすい4つのポイント:
    『認知行動療法トレーニングブック(第2版)』動画視聴&ディスカッション
    ・アジェンダ設定の難しさ
    ・思考記録に伴う困難
    ・適応的思考を導きだす難しさ
    ・活動スケジュールを作成する際の問題
  3. 個人面接をインターネットでサポートする認知行動療法(blend CBT)活用法
    参考図書
    認知行動療法トレーニングブック[DVD/Web動画付] (第2版)
    監訳:大野 裕/奥山 真司 医学書院

WS08 ワークショップ8

2020年11月23日(月・祝)9:00-12:00

看護師が実践するCBT

オーガナイザー
岡田 佳詠 先生 (国際医療福祉大学成田看護学部看護学科)
中野 眞樹子 先生(合同会社 エムエムIMS 笑む笑む訪問看護ステーション)
北野 進 先生(東京都立松沢病院)

昨今、精神疾患はもとより身体疾患へのCBTの適用が進むなか、本邦では、CBTの普及が十分でなく、医師や心理職のみならず、看護師や作業療法士など、実施者の拡大が期待されている。そのなか、平成28年度診療報酬改定で看護師が医師と共同でCBTを実施した場合、算定可能となったこと、またチーム医療の推進の観点からも、看護師のCBTの実践力向上と質の確保が課題となっている。

看護の臨床現場は病院から地域と幅広く、特定の時間帯というよりも24時間を通して患者の生活場面に密着したケアを展開する点に特徴があり、現在の早期退院・地域移行の推進の観点からも、入院施設内で、従来の長期間の定期的なCBTの実施には限界がある。また、看護師には、精神障害者の地域生活をどう支えるかが重要な課題であるが、地域で活用できる短時間で効率的かつ看護師が実践可能なCBTモデルの開発は進んでいない。そこで看護師のCBTの実践力向上と質の確保の議論は、これらの特徴を踏まえてなされることが重要であり、診療報酬の算定が可能かどうかのみならず、看護の一環として、病院や地域の場でどうCBTの基礎知識・スキルを取り入れ、効果的に実践するかを検討することが、患者の自律性の向上や回復、生活機能の改善、地域生活の安定とQOLの向上を図る上で不可欠と考える。

筆者は、これまで精神看護領域で働く看護師のCBT実践力向上と質の確保をめざし、CBT研修(スーパービジョンも含む)を多数実施してきた。そのなかで、研修に参加された病院や地域で働く看護師の方々が、研修で習得したCBTの基礎知識・スキルを、どう看護の臨床現場に落とし込み、看護実践として馴染ませていけるかが、「実践力の鍵」と考えてきた。しかし一方、それが難しい、ということも実感してきた。実際に、どうCBTの基礎知識・スキルを取り込めば、通常の看護のなかに馴染み、使っていけるのか。看護師一人一人の動機づけの高さや向上心、探求心、忍耐力は勿論、周囲をどううまく巻き込み、協働しながら進められるのか、課題は山積している。本ワークショップでは、これらを参加者と共有し、考えていきたい。

まず、これまで、病院内の病棟看護では、また地域の訪問看護では、どのようなCBTの基礎知識・スキルを取り入れ、看護に落とし込み、馴染ませ、使ってきたのか、またその成果はどうだったのか、具体例を参加者と共有し、それらが実現できた要因を広範囲にわたってディスカッションする。その後、看護師がCBTの基礎知識・スキルを取り入れ、使っていく際に必要な病院や地域でのスーパービジョン体制について、既存の文献や筆者のこれまでの研究成果を踏まえて提案し、より効果的な進め方をディスカッションする。

WS09 ワークショップ9

2020年11月23日(月・祝)13:00-16:00

成人期のADHDの認知行動療法

オーガナイザー
中島 美鈴 先生 (九州大学人間環境学研究院)

注意欠如・多動症 (Attention-Deficit / hyperactivity Disorder; ADHD) は,成人期にも症状が継続し,職業,家庭,社会生活など広範囲におよぶ機能障害を引き起こす発達障害である。児童期に見られたADHD症状は,多動は約50%,衝動性は約40%程度が年齢とともに減少するが,不注意は約20%程度しか減少しない (Wilens, Biederman, & Spencer, 2002) ことや,ADHDの3つの症状の中でも不注意が特に成人期まで持続しやすい (Biederman, Mick, & Faraone, 2000) ことから,成人期のADHD患者は不注意症状に起因した機能障害を抱えやすいと言える。薬物療法だけでは,成人期患者の20~50%が薬物療法に反応が見られないか,副作用等の有害な反応がみられる (Wilens, Biederman, & Spencer, 2002) ことから,追加または代替の心理的支援が必要とされている。

これまでの心理的支援は,ADHDの原因仮説に基づいて構築されてきた歴史がある。いくつかの原因仮説のうち,最近の有力なものでは,ADHDの症状および機能障害を神経心理学基盤の特徴によって説明したSonuga-barkら (2010) の三重経路モデル (triple pathway model) が挙げられる。これに沿って,ADHD患者を理解し,介入する治療的枠組みが注目を集めている。 国際的な治療ガイドラインでは,2020年時点で存在する薬物療法から心理的支援までカバーしたものはNICE : The National Institute for Health and Clinical Excellence (2018), CADDRA : The Canadian Attention Deficit Hyperactivity Disorder Resource Alliance (2018), BAP : The British Association of Psycholopharmacology (2014), DGPPN : The Deuutche Gesellshaft fur Psychiatric, Psychotherapie und Nervenheilkunde (2003) の定めている4つである。それらに共通して推奨されている心理的支援は,「心理教育」と「機能障害への対処スキルの習得」である。成人ADHD患者に対する認知行動療法は,1990年代後半にはマインドフルネスを用いる試みがなされ,次第に整理整頓や,認知再構成法,問題解決技法,衝動コントロール,アンガーマネジメントおよび時間管理,記憶力の補助など多様な技法が追加され,2010年頃からは無作為比比較試験で効果が実証されるようになった。ADHD患者への認知行動療法は,うつ病の認知行動療法と比較すると,生活指導的な要素も見られ,古くは認知行動療法に含まないとする見方もあったが,現在ではこれらの技法を広く認知行動療法とよんでいる。

本ワークショップでは,上述したADHDの概要,原因仮説,治療ガイドラインについて詳細に講義した後,ADHDの認知行動療法とうつ病の認知行動療法との違い,ADHDの認知行動療法の実際的な問題と対処,ADHDの認知行動療法に特有な技法について事例を用いた演習形式でお伝えする。

WS10 ワークショップ10

2020年11月23日(月・祝)9:00-12:00

自殺念慮のマネジメント-アセスメントと危機手法および短期的な認知行動療法的視点-

オーガナイザー
大塚 耕太郎 先生 (岩手医科大学医学部神経精神科学講座)

臨床場面や支援場面では悩みを抱えた方が追い詰められ、自殺念慮を抱いている方に出会うことは少なくありません。そのような場合に、支援者は危機介入として自殺の危険性に留意しながらマネジメントすることが求められます。そこで重要となることは、自殺念慮のアセスメント、対峙の仕方、そして対応です。危機介入における帰結は最終的な解決ではないが、心理的な働きかけにより不幸な転帰を辿らずに危機を乗り切り、心理的な問題の次の段階に進むことが不可欠な現場課題です。このワークショップでは自殺リスクのアセスメントと危機介入における行動目標を取り上げ、概論の講義と関連項目の演習を通して、臨床現場での自殺リスクへのアプローチの基本的知識・技法の理解につなげることを目的として行います。そして、 行動目標、基本姿勢、 精神医学的アセスメント、自殺リスクアセスメント、5)安全確保とケア環境、ソーシャルワーク、リスクマネジメントなどの視点について、模擬事例等を検討しながら学びます。

WS11 ワークショップ11

2020年11月23日(月・祝)13:00-16:00

対人関係療法(IPT)のトリセツ:「なんで対人関係で、過食やPTSDまで治るの?」から”一問一答まで”

オーガナイザー
宗 未来 先生 (東京歯科大学 市川総合病院 精神科)

対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT)は、うつ病治療においてCBTと双璧のEvidence-based psychotherapyである。疾患毎に特異的なフォーマットで治療提供されることの多いCBTとは異なり、IPTは多様な疾患に対して同一フォーマットで実施される診断横断型治療である。うつ病、双極性障害、持続性抑うつ障害(気分変調症)、神経性過食症/過食性障害に対する効果に加え、近年はPTSDにおける持続エクスポージャー法(PE)に対する非劣勢が示されるなどへの有効性が確認されている。欧州精神医学会(European Psychiatric Association)の治療指針では、慢性うつ病に対してIPTはCBTより高いグレードで推奨されている。また、不安症へのエクスポージャーは効果の高い第一選択のアプローチであることに疑いはないが、例えば大うつ病を併存した患者へのPEでは、9倍超に脱落が増えたのに対して、IPTには殆ど影響がなかったことが示唆されるように、エクスポージャーに適さない、もしくはエクスポージャーに脱落したケースへの代替としてもIPTは注目される。実際、OCDやSADへのCBTは確かに効率性に優れた治療である反面、Y-BOCSやLSAS-Jの点数が大幅に減少しても、背後の家族関係といった重要な他者との改善が得られず、ウェルビーング上の満足には至っていないケースは臨床的に経験されるところであるが、このようなケースにおいて、IPTは次の1手としてしばしば有益である。またCBTは、愛着問題を抱えているなど、問題解決に向き合う力に欠ける自己志向性の低いケースでは脱落が高いことが報告されているが、CBTとは異なる治療仮説を持つIPTを手札に持つ治療者は、より臨床的に強いとも考えられる。

しかし、国内ではなかなかトレーニングの機会に恵まれないのがIPTの現状であり、我が国で十分に普及しない理由とも考えられる。本ワークショップでは、米国のエキスパートから正式にIPT(IPSRT)のスーパービジョンを受け続けているオーガナイザーが中心となり、IPTの基本理念についての治療マニュアルの行間にあるより実践的なノウハウ解説に加え、うつ病以外にも、双極性障害、PTSD、摂食障害といった疾患に対して、IPTがどう働きかけ、なぜ効果が得られるのか?について、それぞれの疾患別に概説する。

そして最後は、IPTをそれぞれ日常で臨床実践する中で感じる疑問点や行き詰まっている不明点などを各参加者に自由に持ち込んでいただき、他のIPT実践者も含めたアドリブでの質疑応答形式のケースコンサルテーションを通じて、参加者のIPT理解を互いに深める機会としたい。

当日の流れ
1)痒いところに手が届くIPT解説
2)各疾患別のIPT治療モデルとそのポイント解説
3)各自持ち込み課題へのグループ・ケースコンサルテーション

WS12 ワークショップ12

2020年11月23日(月・祝)9:00-12:00

アサーション~リワーク・プログラムへの活用

オーガナイザー
内藤 みちよ 先生 (桂メンタルクリニック)

1990年代初頭に日本に導入されたSSTの病院実施経験をベースに、女性センターやクリニック、学校、福祉施設など様々な領域で、対象者や場のニーズ・条件に応じたコミュニケーション(アサーション)トレーニングを実践・試行してきました。それらの経験蓄積に基づき、5年余前から休職者のためのリワークプログラムの1つとして実践しているプログラムを紹介します。当日は、プログラムの2大柱である、1)認知面に働きかける「エピソード分析」 2)行動変容を促すための「割り稽古ロールプレイング」を体験していただきます。 また、グループで実施する意義(セミナー中のメンバー間コミュニケーションも「今ここ」の実践と捉える、RPで変化や効果を目の当たりにすることから勇気づけられるなど)と、対象者や施行場所の条件やニーズにあったプログラム構成(1回完結の構成など)の在り方、復職後のフォローアップグループの実際などを紹介をします。 参加者が実践しながら、ご自身の現場に合ったプログラム作りも考えて頂ける場になる事を期待します。

WS13 ワークショップ13

2020年11月23日(月・祝)13:00-16:00

慢性疾患とアドヒアランスにいかす行動変容の基本

オーガナイザー
藤澤 大介 先生 (慶應義塾大学医学部医療安全管理部/精神神経科)
小林 清香 先生 (埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック)
巣黒 慎太郎 先生 (一般財団法人住友病院臨床心理科)

慢性疾患での認知行動療法の実践、特に食事習慣や服薬管理などのセルフケア行動の促進に焦点をあてたワークショップです。

慢性疾患では、食事・運動・喫煙・飲酒・服薬など、多くのセルフケア行動が、疾患経過や予後に大きな影響を与えます。しかし、日常生活の中でそれまでの習慣を改めたり、新たな行動を獲得したりすることは容易ではありません。多くの慢性疾患では、早期には自覚症状が無く、一時的に行動を変容したとしてもその成果を実感しにくいという問題があります。

適切なセルフケア行動の遂行には、疾患に関する正しい知識を持つこと、疾患とその経過を自分のこととして認識すること、自分の取るべき行動が具体的に考えられること、行動を阻害するような要因に対処できること、そして、行動を変え、それを維持するための動機を持つこと、が非常に重要です。また、これらを促進する協同的な関係を築く援助者側の姿勢も欠かせません。患者さんが主体的にセルフケア行動の変容や獲得に取り組み、それを続けていくための援助に役立てることのできる認知行動療法の視点と技法を学びます。

以下のテーマを取り上げながら、ロールプレイやディスカッションを通じて、具体的な支援方法の実際を学びます。

  • 1)行動変容に関する基本の概説
    慢性疾患における適切なセルフケア行動を困難にする背景
    行動変容への準備性(多理論統合モデル:変化のステージとプロセス)
    適切な行動を促進する認知的要因(重要性の認識と自己効力感)
  • 2)セルフケア行動の動機づけの促進
    セルフケアの意義を扱う(価値)
    損益分析
  • 3)セルフケア行動の実行可能性を上げる支援
    行動目標設定における工夫(SMART goalの設定)
    実行を妨げる要因への対処
    生活習慣病、食事や運動療法が必要な身体疾患(糖尿病や慢性腎臓疾患など)、精神疾患患者さんの生活習慣の改善(運動、栄養管理、禁煙、服薬アドヒアランスなど)、健康な方の健康関連行動の向上などにも応用可能な内容です。
    参加に際して、当該領域での経験は不問です。
    ちなみにオーガナイザーの一人は、このワークショップでの参加者とのロールプレイを通じて、自身の慢性運動不足を(ほんの少しですが)改善しました!

WS14 ワークショップ14(オンデマンド配信)

慢性疼痛の認知行動療法

オーガナイザー
水野 泰行 先生 (関西医科大学心療内科学講座)

本邦での慢性疼痛診療は欧米に比べ数十年は遅れていると言われている。しかしここ十年ほどの間に徐々に問題意識が共有され、診療体制を整えようという動きが出てきている。そこでは集学的診療の重要性が強調されており、身体症状である痛みに対する心理社会的アプローチが重視されている。なかでも心理療法として認知行動療法が標準的な治療とされており、集学的痛みセンターの認定要件にも心療内科医か精神科医、もしくは公認心理師がスタッフとして参加していることが求められている。現在の慢性疼痛診療で身体科の医師として中心となっているのはペインクリニシャンや整形外科医で、そのほとんどは心理臨床に関してはあまり専門的知識も経験も無いと言わざるを得ない状況であるため、臨床心理、精神医学の専門家の役割は重大である。現在の方向性としては慢性疼痛には薬物療法、運動療法に加え認知行動療法が標準的な治療法であるとされている。慢性疼痛対策は国を挙げて取り組まれている事業であり、仮に今後認知行動療法が保険収載されることがあれば、慢性疼痛診療の界隈で、一気に心療内科医、精神科医、公認心理師の需要が高まるだろう。 医療現場でチーム医療の一員として慢性疼痛診療に加わる際、ある程度の専門用語や基礎的な疾病概念、認知行動療法の考え方や技法、慢性疼痛への認知行動療法のポイントといった知識や経験が求められる。本ワークショップでは心理職や精神科医など、身体疾患特に慢性疼痛を専門としていない医療関係者向けに、慢性疼痛の生理学的、心理学的な基礎知識を紹介し、慢性疼痛に対するインテーク面接と認知行動療法をデモンストレーションもまじえて解説する予定である。

WS15 ワークショップ15(オンデマンド配信)

周産期の認知行動療法 ―助産師や保健師のためのCBTに基づく対話法研修―

オーガナイザー
堀越 勝 先生 (国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
蟹江 絢子 先生 (国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
牧野 みゆき 先生 (国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
中嶋 愛一郎 先生 (国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
横山 知加 先生 (国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
<周産期のメンタルヘルスと認知行動療法>

周産期は、親という役割を担う移行期であり、身体だけではなく、こころ、環境のすべてが変化し続ける心理的負担の大きい時期と考えられる。自身についても、子どもについても、将来への見通しが立ちづらく、予測できない事態が起こり得るために、不安が生じやすくなる。

妊娠期には、つわり、切迫早産などの身体的問題も生じうる上に、妊婦検診や育児用品の準備などで経済的負担も大きくなる。産後は、子どもを授かった喜びがあるものの、夜泣き、授乳等によってまとまった睡眠時間が確保できないなど、緊張した状態も続きやすい。里帰り、産休などでこれまでの人間関係から孤立する場合もある。これまでの生活では経験しなかった問題も多数発生する。更に親になることによって、生きがいを感じ、子どもへの愛情や親としての役割意識が育まれ、柔軟で視野の広い考え方に結びつく一方で、こうした環境の変化によって抑うつ症状が引き起こされる場合も多い。結果的に、周産期においては約6-12%の妊産婦がうつ病を発症し(Gavin et a l., 2005)、こうした周産期の抑うつ症状に対しては、認知行動療法(CBT)の理論に基づいたケアが有効であることが報告されている(Sockol, 2015)。

<本ワークショップで学ぶCBT対話スキル>

しかし、現実問題として、日本国内では、周産期のCBTを学ぶ機会は未だ乏しく、CBTをゼロから学び、訓練を受けることに抵抗を感じる者も少なくない。そこで、我々は、周産期メンタルヘルスケアに関わる多職種がCBTを臨床で活用できるように、周産期メンタルヘルスに対する実践的なCBTのモデルを開発し、研修を行って来た。基本的な考え方としては、CBTを含む精神療法は一般にTalking Therapy(対話療法)と呼ばれる対話を用いた介入方法である。つまり、普段の対話をCBTに基づいたケアの対話法に変換して行く事で周産期のCBT的ケアが可能になる。本ワークショップでは、妊産婦に対するCBT的対話技法を紹介する。それは、1)対話の目的を確認する 2)「共感」を示して協働関係を作る 3)「質問」を用いて、最も感情が動いた場面を整理して問題を明確化する 4)様々な技法を用いて問題に一緒に取り組む 5)今回の面談を振り返り、次回までに行うべき課題を設定するという流れである。

また、本ワークショップでは周産期におこる精神疾患を学ぶことは、妊産婦を理解する助けになるため、精神疾患についても紹介する。